『作曲委嘱 無料』は実現できるのか

『委嘱料』の疑問

僕は、たまに作曲をお願いされることがあります。(ほんとたまにですが)
通常ですと、『委嘱料(作曲料)』を頂いて、対価としての成果物(作品)を納めることになります。
ですが、僕はこれについて、いつも心の中でモヤモヤしたものを感じるんです。
もちろん、自分が不満を抱いているというわけではないです。
ただ、仕組みとして、なんとなく合理的ではないような気がしていたのです。
それでは、なぜ合理的でないような気がするか、ということを紐解いていきたいと思います。

負担の違い

「東都アンサンブル」という楽団が、作曲家の古垣タダシ氏に委嘱して『ゴーストライダー』という曲を作ってもらったとしましょう。
委嘱料として、東都アンサンブルは、古垣氏に50万円を支払いました。
演奏会のポスターには『ゴーストライダー(古垣タダシ)※委嘱初演』という文字が堂々と目立つフォントで印刷され、話題を集めました。
演奏会当日、多くの聴衆が来場し、東都アンサンブルの公演は、業界からも高い評価を受けました。
そして、その半年後、世田谷室内楽団が再演し、また数カ月後にはアンサンブル四谷も再演しました。
(※全て仮名であり、実在する人物や作品とは関係ありません。)
世田谷室内楽団やアンサンブル四谷は、もちろん委嘱料を払っていません
払ったのは楽譜代と作品利用料のみで、合計1万円でした。
これに対し、同じ曲を演奏した東都アンサンブルは50万円を負担したのです。
同じ曲を演奏したのに、かたや50万円、かたや1万円。
ずばり、この差が、僕の心のモヤモヤの原因です。

そもそも『委嘱初演』とはなにか?

【委嘱(いしょく)】
” 一定期間、特定の仕事を他の人に任せること。委託。”
(goo 国語辞典より)
『初演』は文字通りですね。初めて演奏することです。
前に「世界」や「国内」などを付けることで意味を限定することもあります。
要するに『委嘱初演』とは「依頼して作ってもらった作品を初めて演奏すること」です。

それでは、50万円と1万円の違いは?

50万円と1万円の差額で得られるものは何でしょうか。
① 委嘱しないと存在し得ないような曲の依頼
②『委嘱初演』のプレミア感
③ 上記による楽団のブランド感アップ、集客力向上
④ 同じく上記による、団員のモチベーションアップ
⑤ 新作をいち早く演奏できる
⑥ 率先して新作を世に送り出すことによる業界活性化(社会的意義)
ざっと思いつくのはこれくらいでしょうか。
単純に言うと、この①~⑥の合計が、49万円と同等もしくはそれ以上の価値があるか、ということが判断基準になります。
もちろん、これは一つの金額例です。
委嘱料が10万円だった場合は、差額9万円分の価値を考えることになります。

ハードルが高くはないか

この差額をどう見るか、それは人によって様々です。
でも、僕は基本的にサービスを提供する側ですが、どうも腑に落ちないところがありまして・・・。
例えば、僕は過去に依頼されて独奏アレンジをしたものに関しては、楽譜を一般に販売していません。
楽譜を販売してしまうと、最初に依頼いただいた方だけに大きな負担を負わせてしまうような気がするからです。
もちろん、現在の委嘱料習慣を否定するわけではありません。
上に書いた①~⑥について、大きな価値の存在が共有できていれば問題ないですからね。
頼む側もそういう観点で依頼しているはずですから。
ニーズがあれば、市場原理としては何も問題ありません。

でも、依頼する側にとって、もっと違う選択肢があっても良いんじゃないか、と思うのです。
もっと便利な、作曲を頼みやすい選択肢があったほうが良いですからね。
そう、ハードルは低いほうが良いのです。

委嘱料以外の選択肢

委嘱料を払う以外で、作曲をお願いする選択肢はないのか・・・。
一昨日、僕は湯船につかりながら、一つ思いつきました。
こういうのはいかがでしょうか。

作曲者「委嘱料は頂きません!その代わり楽譜を〇〇冊買ってください!」

要するに、「委嘱料を払う」から「一定量の楽譜の購入を約束する」への転換です。
楽譜は公平な価値をもっていますからね。
買った楽譜を団員でわけあうもよし、タダで配るもよし、転売するもよし。
演奏会場などで買い取った楽譜を販売し、全部売れれば実質無料で作曲をお願いできる、という仕組みです。
こんな事を言い出すとまた、「粋(イキ)じゃない」等とお叱りをいただきそうですが、現時点では一番合理的なアイデアだと僕は思っています。
新曲を頼むハードルが低くなるということは、世の中に新しい作品が多く送り出されるキッカケになりますからね。
また、新作発表の段階で楽譜が入手可能な状態だと、作品の流布としても効率的です。

というわけで、今後しばらくは、僕に作曲の依頼を頂ける場合、委嘱料は不要です。
その代わり、楽譜を一定量ご購入いただきます。
※「校歌」「社歌」など、部外者からのニーズが想定できない依頼の場合は除きます。

疑問に思ったことに対しては、1つずつ考え、自分なりに答えを出す。
最近心がけていることです。
長文を最後までお読み頂き、ありがとうございました!


補足です。
数年前、この記事の考えに沿って、実際に『実質無料』で作曲を請け負いました。
要するに、委嘱料を無料にする代わりに、依頼者様には楽譜を買い取っていただきました。
そして、半年もしないうちに依頼者様はその楽譜をすべて売り切ってしまいました。
つまり、依頼者様は実質金銭負担ゼロ、ということになります。
依頼者様の協力があって初めて実現できたことだと思っております。
同時に、明るい道が拓けたとも感じています。

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