昨日、2023年3月10日は僕の40歳の誕生日であり、ギターをシタール化する『Sitar Express』の公開日でもありました。
ちょうど1年前に『natu-reverb』を公開した後、その経緯を綴った記事を書きました。
今回も『Sitar Express』の開発経緯や、最近考えていることを記事にしたいと思います。
なぜシタールなのか?
話は22年前にさかのぼります。
当時僕は京都大学工学部電気電子工学科に入学し、学生生活を開始したのですが、7つ上で留年中(!)のヒラカワ先輩に誘われてシタールのコンサートを聴きに行きました。
それはもう摩訶不思議なサウンドで、その魅力に圧倒されました。
ですが、当時は1日12時間練習するほどマンドリンに夢中だったため、シタールを始めることはありませんでした。
ただ、やっていた楽器がマンドリンだったこともあり、世界中の民族楽器の音源を集めて聴いたり、その後もシタールに対する憧れをずっと持っていました。(マンドリンも元を辿ればシタールが起源だという説もありますからね)
こんな風にシタールに対する憧れを持っている方は意外と多いんじゃないでしょうか?
何がキッカケで開発したのか?
では、何がキッカケで今回のSitar Expressの開発に踏み切ったのか。
実は数か月前、簡単にギターをミュートできるツールのアイデアについて考えていました。
試作品をテストしていたときに、設計が甘く、偶然シタールのようなサウンドになったのです。
今から思えば全然シタールっぽくなかったですが「お、これを改良すればシタールになるのでは?」と思わせるものがそこにはありました。
そして少し軌道修正し、シタールツールの開発に舵を切りなおしました。
そう、キッカケはほぼ偶然と、それと “インスピレーション” と言う名のただのノリです。
どんな風に開発を進めたのか?
結論から言うと、今回も大量の試作品を作りました。
途中数えるのを諦めましたが、記録に残っているだけで68個あります。
natu-reverbの時もそうでしたが、僕の開発スタイルは光速PDCAです。
開発において最も重要なのは新たな変数を発見することですが、そのためには圧倒的な数の試行が必要です。
悩んでる時間があればまずはやってみる。最初は100点満点中の5点でも取れれば良い。
すごく時間をかけて、改良点を山ほど積んで試作品を作っても、想定と違ったら一気にスタート地点にもどってしまう。
それならば、どんな細かい改良であっても思いついたら即実行し、情熱が冷める前に次の燃料を投下する。
そんな具合に試作品の屍を積み上げてゴールに手を伸ばそうという考えです。
スマートではないですが、経験則上、僕にとってはこれが一番効率的です。
いくつか、弔いとして試作品の屍を紹介させてください。
エントリー no.1 …横から挟め!
たぶん試作品のno.10くらいだと思います。
本場シタールと同様に下から弦を障りにいくスタイルだと課題が多く、視点を変えて弦の左右から障りにいく形状を思いついたときのものです。
方向性としては悪くなかったですが、弦を弾くときのテンションに耐えられないのと、あと開放弦以外では障りが少なすぎました。
裏返してブリッジサドルを使って固定するものも作りましたが、色々と限界がありました。
エントリー no.2 …ピックアップ擬態
これはno.20くらいでしょうか…記憶が…
やっぱり下から障りに行くのが良いんじゃない?となり、プラスネジで弦毎に調整できるようにして、ついでにピックアップっぽい見た目にしたものです。
ただし、ネジの調整はかなりピッチの細かいものでないとシタールの表現は無理でした。ここで「やっぱ下からはダメか…」となった記憶があります。
エントリー no.3 …君はミキサーか?
おぉ…これは、路線がだいぶ違いますね。
「弦に対して斜めに障りにいくのが良い」「スクリューは難しい」という教訓の後で作ったno.30くらいのものです。
斜めの台座の上にあるツマミをスライドさせて高さを調整するアイデアでした。
ミキサーのツマミみたいですね。
しかし、これもシタールの微妙な調整までは無理でした。
エントリー no.4 …ジグザグ
かなり近づきましたね。これでno.45くらいだったと思います。
やっぱりスクリュー型にもどり、この頃は手で回せる仕様でした。
手で回せるスペースと大型の回転機構が必要だったため、ノブが2列になっていますね。
円錐型のスクリューの斜面で弦を障りにいくスタイルでした。
このあたりでだいぶ光明が見えた記憶があります。
(ここからさらに20以上の試作品を作る羽目になるわけですが…)
以上、試作品の墓場から発掘した代表4作品をご紹介しました。
10年前からあった違和感の正体
最後に少しよもやま話を聞いてください。
最近お気に入りのフレーズに『あなたの商品は何ですか?』というのがあります。
人は生活して家族や他人と接点を持ったり、仕事をしたりするときには、何かを売りにして価値を発揮しているはずです。
「家族や友人の付き合いに売りなんて要らないでしょ?」と思うかもしれませんが、無意識だったとしてもそういう関係を築けるあなたの存在はとても価値のあるものだと思います。
話を戻しまして、10年前の僕はちょうど海外駐在から戻ってきて1年間普通に公務員をやった後、退職してプロマンドリン奏者になる寸前でした。
そこで、改めて僕は当時の自分に聞きたい。『あなたの商品は一体何ですか?』と。
おそらく当時の僕は『誰も見たことのない新しいマンドリンの演奏を届けること』と答えたはずです。
ですが、今ならわかるのですが、当時の自分が考えていた価値と世間が考える価値にはギャップがありました。
実は、僕は演奏家をやっていた頃も、自分の演奏を商品として捉えていませんでした。
どちらかと言うとマンドリンやその文化を商品と捉えていて、自分の演奏は必ずしも必要ないと思っていました。マンドリンの良さを知ってもらうために、自分自身で一番効率的に実現できそうだったのが、自分が考えた演奏法や自分が作曲した作品を発表することだっただけです。
だからCDや動画として世に出す度に、僕の使命は一旦終わった感覚があったのです。ライブや演奏会で演奏する時にはもう次のことに関心が移っている状態だったので、そのタイムラグには少々苦しみました。
話が長くなりましたので、結論に移ります。
当時も今も、僕にとって商品は「自分」ではなく「自分が作ったもの(体験)」なのだと気付きました。
自分は人知れず新しい体験づくりに精を出し、その体験を楽しむ人の声が時々、間接的に耳に届くくらいが一番居心地が良いのです。
10年後の自分にも聞いてみたいです。『まだお変わりないですか?』と。
◆◆ステルスクーポン◆◆
さて、こんな日記のようなとりとめもない文章をここまで読んでいただいた方にはご縁を感じざるを得ません。
心ばかりですが、シタールエクスプレスでご利用いただけるクーポンコードを記載します。
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