こんにちは、石橋敬三と申します。
色々やっている人間ですが、この記事では作曲のお話をしたいと思います。
企画について
作曲は曲者(くせもの)
今回、マンドリン奏者の児嶋絢子さんから作曲のご依頼をいただきまして、取り掛かってはいるのですが、改めて「作曲という仕事は曲者だな」と思っております。
他のお仕事であれば、だいたい最初に課題が設定されているか、そうでなくても自分で最初に課題を設定できます。
どの山に登れば良いのか、その山がどんな山なのかは調べればわかるわけで、あとはどう登るかという計画を立ててそれを実行するだけです。
ところが、作曲というのは、登る山すらも自らのイマジネーションで創り上げていかないといけません。
創作活動の中でもかなり抽象度の高い部類だと思います。
…つまり何が言いたいかというと、今回も行き詰っているということです。
行き詰っているというより、立ちはだかる山の亡霊の前で立ちすくんでいるというほうが正確かもしれません。
前に進む勇気が必要だと思ったのです。
企画『100日後に完成する曲』の背景と趣旨
そして、今回ある企画を思いつきました。
『100日後に完成する曲』を作ろうと。
少し前に一世を風靡した例のワニくんとよく似たタイトルフォーマットですが、今回は結末は私を含めだれも知りませんし、ひょっとしたら完成しない可能性すらあります。
そんな危険な企画をなぜやろうと思ったのか、理由は二つあります。
まず、私自身、新しいことにチャレンジするということでモチベーションを上げるキッカケになると思ったから。
作曲は何度も経験していますが、本当に精神を消耗しますし、ときには前に進んでいるのかどうかもわからない時があります。
そんなときに外界との接点があると精神安定につながってモチベーションキープになると思ったからです。
もう一つは、作曲に関心を持っている方へのノウハウ共有です。
音楽理論はその気になって学べば理解できると思いますが、作曲する際に何から始めるのか、どういうタイミングで何を考えて進めるべきなのか、そういった情報はあまり転がっていないと思います。
正解なんてありませんが、私がどういう風に作っているのか、現場をガラス張りにして共有できればと思います。
それでは、最長100日間の企画を楽しんでいきたいと思います。
作曲の過程
10/4 まずは条件や前提の確認から
さて、まずはご要望を確認します。
前提の認識がズレたまま開始すると後で大変なことになりますから、少しでも疑問点があればここで依頼者様とコミュニケーションを十分にとっておきます。
ここで注意すべきことは、多くの依頼者様はどういう条件を設定すれば良いのかご存知ないということです。
そのため、こちらから積極的にヒアリングし、必要な情報を収集する必要があります。
ヒアリングの結果、今回の条件は以下のとおりでした。
—————————
編成︰
マンドリン二重奏
曲調︰
石橋らしい曲
切なくグッとくる情熱のこもった曲
曲の長さ︰
短すぎなければ特に指定はない
(ニュアンスとして5分~10分と推察)
納期︰
遅くとも2023年1月中旬まで
—————————
今回、マンドリン二重奏でのご依頼です。
ギターやピアノに比べマンドリンは表現に制約が多く、楽器の特性を十分に理解して取り組む必要があります。
作曲する場合、楽器を触りながら実際に出てくる音をベースに組み立てていく方法と、譜面をベースに組み立てていく方法があります。
今回は、実際に楽器を触りながら音を組み立てていく方法に決まりです。
楽器の特性を確認しながら作らないと、想定していた音色や音形が実現できないこともありますからね。
その場合、実際は楽器を触って確認しながら五線譜に落とし込んでいくことが多いのですが、今回は皆さんにもわかりやすいよう、五線譜ではなく音源で組み立てて行こうと思います。
その方が曲が出来上がっていく様子がよくわかると思います。
次回は、曲の幹となるかもしれないモチーフを探っていきたいと思います。
10/5 曲の核を探す旅①
曲の核となるメロディやコード進行などを見つける。
作曲する中で、これが最もハードルの高い作業かもしれません。
経験上、ここをおざなりにやってしまうと、後で行き詰ることになります。
逆にバシッとイメージが決まる核が見つかった場合、完成までの道のりが一気に近くなります。
まずは「石橋らしい曲」「切なくグッとくる情熱のこもった曲」というご要望を考察してみます。
「石橋らしい」とは一体何か。
実際こういうご要望をいただく場合が多いのです。
その理由は、私が世間一般から見ると型破りな表現や活動をしがちで、なおかつそういった表現に寛容な方からのご依頼が多いからでしょう。
ですので、「石橋らしい」=「型破り」と定義します。
ここでは「型」=「クラシック音楽 / マンドリン音楽の型」と見て良いでしょうから、クラシックやマンドリンの常識を破るチャンスがあれば積極的に破っていく姿勢で行きたいと思います。
ちなみに、チャンス的な文脈がないのに無理筋で常識を破るのはただの中〇病なので避けたいです。
なのでチャンスがなければ無理をして型破りになる必要はありません。
次に「切なくグッとくる情熱のこもった曲」ですが、これは定義が難しいですね。
今のところ、マイナー調でコードやメロディの展開が深い(緊張と緩和、解決のふり幅が大きい)としましょう。
感情のジェットコースター、までいけるか分かりませんが、少なくとも時速50kmで真っすぐな田園地帯を走るような曲にはならないようにしたいと思います。
また、二つの条件から、コンテンポラリーなアプローチではなく、調整感がある曲調が求められているように感じます。
調整感があるけど、型破りな曲。
などと考えていると一つアイデアが浮かびました。
コードにすると次のようになります。
Dm7 │ Gm9 │
A7sus4 A7 D♭M7-5 D♭6-5 │ Dm7 B♭M7 │
Am7 D♭M7+5 E♭m7 │ Dm7
で、これを客観的に聴いてみて思ったのは、『窓につたう雨』に似ているな、ということです。
アイデアとしてはストックしておくとして、これを曲の核にしてしまうと大体同じ曲に仕上がってしまいそうなので、次のアイデアを探す旅に出ます。
しかしこの進行、5小節単位になっていてちょっと面白いですね。
実は昔から奇数が好きなんですよね。
割り切れないところとか、それが故に分解のバリエーションが豊かで解釈の余白が生まれるところとか。
10/6 曲の核を探す旅②
8年前に1日1曲つくって音源に残すというのを1ヶ月続けたことがあります。
当時の僕の引き出しアーカイブみたいなもので、たまに音源を聴いて振り返ります。
8年も経つと、もはや半分他人の曲みたいになっています。
この「半分」というのが良いのです。
たまに聴くと、自分の中に失われた回路が復活する感覚があります。
他人の作品等からインスパイアされて完全に新しい回路を作ることのほうがもちろん大事なのですが、それには相当の体力が必要です。
「半分自分の作品」はあまり体力がないときでもブーストしてくれるエナジードリンクのような効果があります。
さて、そんな半分自分の曲を聴いていてアイデアがひとつ降りてきました。
Dm7 │ Dm7/C │ Gm7 │ B♭M7 Cm7-5 E♭7 │
Dm7 Dm7/E │ F G7 │ Gm7 Am7 B♭M7 C6 │
E♭M7 │ B♭M7
マンドリン一本で弾くのがかなりギリギリなフレーズです。
なんでそんなギリギリなことをしているかというと、実は意図があります。
マンドリン二重奏の曲ではありますが、曲の展開の中で色んな動きを出していく必要があります。
基本的には1本でも音楽が成立するようにしておいたほうが、もう1本のマンドリンが自由に動けるのです。
そんな意図があって、少なくとも曲の核の部分はマンドリン1本でも成立するものを考えていきたいと思っています。
話を戻して、このフレーズ、少し格好つけすぎでいけ好かない感じがします。
ただ、今回のご依頼主の児嶋さんはビジュアル系ロックが好きな方です。
ちょっと意識をした部分もありますが、これくらいはOKかもしれないと思ったりもします。
アイデアの一つとして大事にしたいと思います。
ここから発展して曲の形が見えてくるのであれば、このアイデアが曲の核になります。
発展しないのであれば、改めて別の核候補を探す旅に出ます。
しばらく寝かせて、明日以降の発酵具合を見て判断するとしましょう。
10/7 曲の核を探す旅③
実は昨日児嶋さんに「こんな感じで進んでますがいかがでしょう?」と打診したところ、どうやら10/5の音源くらいがお好みだということがわかりました。
おそらく10/6の音源はちょっと展開が早すぎるのでしょう。
そこで、再びもう少しゆったりした流れの進行を意識して曲の核を探してみます。
今日も一つ浮かびました。
IVから始まってIVで終わるので、ちょっと感情を抑えというか、感情を敢えて出し切らない系の進行ですね。
ここで少し脱線しますが、マンドリンの音って弾いた後すぐに減衰しますよね。
音が発射された瞬間のエネルギーとそのあとの余韻のエネルギーの差が他の楽器よりも格段に大きいです。
そして、他の楽器と合わせるとき、どうしても発射された瞬間のエネルギーで合わせざるを得ません。
そうするとどうなるかと言うと、マンドリンの醍醐味である繊細な余韻が埋もれてしまって何を弾いているのかわからなくなるのです。
そこでマンドリン奏者は頑張って音量を稼ぎに行くのですが、今度は音の発射時のエネルギーが大きくなりすぎて、他の楽器の邪魔をしてしまう…。
こんなジレンマを昔から感じていて、独奏の時は関係ないのですが、アンサンブルの時は特に注意を払っています。
そしてそんなジレンマを解消するアイデアとして編み出した奏法が「ピンポイントミュート」です。
(※おそらく私しかやっていないので検索しても何も出てきません)
ピンポイントミュート奏法でさっきと同じフレーズを弾くとこうなります。
どうでしょうか。
エッジはそのままにアタック時のエネルギーが抑えられて、音質も適度に奥に引っ込むので主役を邪魔せず伴奏できるようになります。
どうやっているかというと、通常のミュートは手のひらの端(小指側)の部分を弦に押し当ててミュートした上で弦を弾くのに対し、ピンポイントミュートは弦を弾くその瞬間だけ手を弦に軽く触れさせるものです。
上手くすればオルガンのような音がでます。
話を戻して、このフレーズ、導入としては良さそうな気がします。
そこでちょっと遊んでみます。
まずはもうちょっとリズムをかき回して、ところどころに接続コードを入れてみましょう。
コードの構成音の横のつながりも意識してできるだけスムーズな流れを作ってみました。
こうなるともう少し遊んでみたくなったので上の音源をベースにもう少しかき回してみます。
こんな感じで。
遊びすぎると思いもよらない方向に尖ってしまうので、これで一晩寝かせてみることにします。
10/10 ピザ生地を作っていく
10/7の音源を児嶋さんに聴いていただいたところ「好きです!!!」とのことだったので、一旦これを核に進めて行こうと思います。
ここからの進め方はざっくり2種類あります。
一つ目はメインのメロディを決めてそこからイメージを拡張していく進め方。
もう一つは曲の全体の構造的なイメージ(コード進行など)を作っていく進め方。
今回は後者でいきたいと思います。
なぜかというと、今の状態でメロディを固定してしまうと可能性を狭めてしまう気がしたからです。
もう少し熟成していきながらメロディを考えたいな、と。
その間、全体的な構成を練っていきたいと思います。
何ピザにするかはまだ決まっていないけど、ピザの生地を作るイメージです。
それで今日湧いてきたのがこの展開です。
ブロック毎にアルファベットで命名し、構成を整理すると以下になります。
A – A – B – C – D – E – A
これで長さが2分30秒くらいなので、展開していけば余裕で5分以上の曲になりそうです。
この段階での生地作りとしてはまぁまぁ良い感じだと思います。
で、ここからどうするのか。
曲作りで計画通りに行くことはほとんどありませんが、一応計画を立ててみることにします。(期限は決めずに…)
生地の上にメロディをのっけてみる(しっくりくるものに出会うまで試行)
↓
しっくりくるメロディから曲を再解釈し、脳内で解像度を上げていく
↓
全体の構造、構成を決める
↓
マンドリン二重奏用にリアレンジする
↓
五線譜に落とし込み、再現可能か確認する
↓
完成
というわけで、次はメロディです。
この段階が一番楽しいかもしれません。
11/8 意識を一旦クラシックに寄せる
お久しぶりです。
他のタスクが重なっていたため少し時間が空いてしまいました。
前回「一旦このコードにメロディを乗せてみよう」というところまで来ました。
しかし、ここで脱線します。
計画的脱線です。
ここで敢えてクラシック音楽を強く意識してみようと思います。
前回以降、ポピュラーソングを弾いたりバンドでの演奏したりしていたので、素のテンションで作りこんでいくと、クラシック音楽を完全無視したものが出来上がってしまいそうな気がしたわけです。
そうなると後から修正するのが大変なので、ここで自分の意識を修正したいと思います。
同じDm調でクラシックっぽい響きを探っているとこんなフレーズが浮かびました。
うん、どこかで聞いたことあるようなクラシックっぽいフレーズですね。
マンドリンの巻き弦のイメージと僕の弾き方のせいもあって少しダークな南米の雰囲気もあります。
このフレーズを弾いているとクラシックの感覚が呼び起されてきた気がします。
この調子で、ちょうど良い感じの展開にしていきたいと思います。
11/16 初めてメロディを載せてみる
前回、自分の頭の中にクラシック音楽の意識を混ぜてみました。
今、頭の中は60%くらいクラシック脳になっています。
この状態で、以前考えたコード進行をさらってみます。
これが10/10につくったピザ生地の一部です。
これをクラシック60%脳で再編成すると次のようになりました。
元が元なので完全にクラシックにはならないですが、少しクラシカルな雰囲気が漂ってきたのではないでしょうか。
前回思いついたバッハ風フレーズの要素も入ってます。
そしてこれにメロディをのっけてみました。
前回まではコード進行の音源だけでメロディは僕の頭の中にうっすらとあるだけでしたが、今回メロディが出現したことでイメージを持っていただきやすくなったかもしれません。
さぁ、次はここを起点に世界を膨らましていきたいと思います。
2023/1/5 突然ですが完成しました
突然ですが、ここで曲が完成いたしました。
はい、わかります。
「企画どうしたん?1か月半も更新なしで突然完成って…」というツッコミはごもっともです。
これについて、少し言い訳させてください。
11月中旬にメロディをのせてみた後、色んな細かいアイデアが矢継ぎ早に湧いてきました
もちろん、記事にまとめなきゃと思っていたのですが、なんとなくそれをすべきじゃないと感じました。
どういうことかと言うと、音のイメージをテキスト化してしまうとその時点で意識が収束してしまい、イメージを固定化してしまうことに繋がる予感がしたのです。
他人と共有できる形で言語化することは、ある意味、考えを整理するプロセスとも言えるため、ガンガンと創造する段階には向いていないと思いました。
もちろん言語化することが必要な場面もあります。
特にイメージが発散しすぎて狙いが定まらない場合などは、一旦言語化することによってクールダウンでき、鋭い創造性を生み出すことにつながりそうです。
まぁそんな感じでして、今は曲が完成してひと段落ついているところです。
これで終わらせるのは申し訳ないため、11月中旬以降、どんな流れがあったのかを次回更新でなるべく具体的に解説したいと思います。
なんか、夏休みの日記の宿題を最終日に一気に書く気分ですね。
ちなみに、曲のタイトルは『コンクリートと青い花』です。
続きはこちらの記事にて。
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