ちょうど5年前の2018年2月、ある紙面に掲載するために自分が書いた文章を発掘しました。
タイトルは『音楽の未来は予測できるか』です。
何ともヤバそうなニオイがプンプンします。
せっかくなので、5年前の自分が見た未来とはどのようなものか確認しつつ、ツッコミどころがあれば全力でツッコんでいこうと思います。
まずは全文を掲載します。
後でブレイクダウンして再掲するので読み飛ばしていただいても大丈夫です。
『音楽の未来は予測できるか』
~大部分がジョークのコラムシリーズ~最近のテクノロジーの進化には驚かされるばかりだ。
米宇宙開発ベンチャー、スペースXが昨年、ロケット技術を応用した超高速な長距離旅客輸送プロジェクトを2020年以降に開始すると発表した。
現在の飛行機とさほど変わらない料金で、ニューヨーク、東京を含む主要都市をわずか30分ほどで移動できるとのことだ。
また、人工知能が運営するハウステンボスの『変なホテル』に代表されるように、人工知能(AI)がどんどん身近になっている。
1989年に公開された『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で描かれた未来の世界に夢見た人は多いが、その中で実化していないのは “タイムマシーンのみ” といったところだ。そんな目まぐるしい進化のなか、音楽という古来から続く文化はどうだろう。
今回は、マンドリンを含む音楽文化について、未来を予測してみよう。
最初に断っておくが、以下に書くことは私たちにとって望ましいことばかりではないかもしれないが、決して悲観的になってはいけない。
20年後、あるいは40年後にこの文章を目にした人が『なんだこりゃデタラメじゃないか』と思うか『なるほど』と思うか。
その結果を楽しみにしながら過ごせると思うと今からワクワクし、そのためにこの文章を書いていると言っても過言ではない。~予測① プロの演奏家が激減する~
過去を遡ってみよう。
90年代には、既に自動演奏のピアノが世に出ていたと記憶している。
自動演奏に鍵盤が連動し、まるで透明人間がピアノを弾いているかような場面を目にし、好奇心を刺激されたことを覚えている。
その後、自分もMIDI、ソフトフェア音源で作曲するようになり、便利さを実感する一方、音質面では納得できるものではなかった。
特に弦楽器については、デジタル臭さが気になって、いつも最もマシだと感じていたピアノやハープの音色を使って作曲していた。
しかし、2000年代に入り、”Vienna Symphonic Library” というソフトウェア音源に出逢ったとき、その自然な音色に衝撃を受けることとなった。
『この先もこのペースで音源のクオリティが進化するなら、将来プロの演奏家は必要なくなるのでは?』という疑問がよぎったのもその時だ。幸いなことに今のところプロの演奏家は存在している。
では、20年後はどうだろうか。どれくらいの演奏家が生き残っているだろうか。
少なくとも、並の演奏レベルで並の方法で仕事をしていても厳しい世界が待っているだろう。
私たちもうかうかしていられない。正真正銘の「人間」にしかできない演奏家とは何なのか、自問自答していきたい。
~予測② ロボット音楽家が活躍する~
演奏だけでなく、作曲においても人工知能が活躍する時代が来ている。
『Orpheus』に代表されるような自動作曲プログラムが続々と登場しており、クオリティも以前と比べると格段に上がっている。
では今後、自動作曲家がどのようなフィールドで活躍するのだろうか。例えばゲーム音楽。
ゲーム音楽は、音楽を単体で味わうものではない。素材という感覚に近い。
音楽を素材として捉えた場合、コストや納期スピードが優先されることになり、その土俵では人間がAIに勝つことは難しいだろう。
アイドルの楽曲などもそうだ。
純粋な芸術作品ではなく『売れるもの』を作る技術に関しては、ビッグデータと自動学習を駆使する人工知能のほうが遥かに伸びしろがある。少なくとも20年後には、多くの人間作曲家は淘汰され、汎用的な音楽素材のほとんどはAI作曲家が担当するだろう。
もっとも、その行為はもはや作曲とは言えないのかもしれない。
海岸に転がっている適当な石を集めて、どこかで見たような作品を作っているようなものだから。一方で、演奏のほうはというと、スタジオミュージシャンならまだしも、人前で演奏するロボットミュージシャンというのはいまいちピンと来ない。
ただし、皮膚や毛髪、振る舞いまで人間と見分けのつかないロボットなら需要があるかもしれない。~予測③ 音楽という概念自体が曖昧になる~
これは非常に漠然とした予測だが、頑張って説明したい。
1980年代までは、テープが伸びるまで一曲を何千回もリピートして聴いたものだ。
個人的な話だが、今でもビートルズのアルバムの曲順はなんとなく覚えている。
一方で、デジタルネイティヴ世代は、浴びるような情報の中、1つの楽曲に費やす時間はとても短い。
音楽を単体で楽しむことも少なくなっているのではないだろうか。
映像やダンス、アニメ、ゲーム、あるいは空間演出、ファッションの一部と考えられることも多くなった。今後ますます『これは果たして音楽と言えるのだろうか』と思わざるを得ないもの、あるいは『音楽とは認識されない音楽』が増えるのではないか。
この文章に関しては5年前に賛否両論あったと記憶していますが今はどうでしょう?
自分自身で読み返して賛なのか否なのか、検証していきたいと思います。
いやぁこういう文章残してくれて、当時の自分にグッジョブです。
5年で世界は大きく変わりましたが、当時を振り返る良い材料を残してくれました。
背景、前書き
最近のテクノロジーの進化には驚かされるばかりだ。
米宇宙開発ベンチャー、スペースXが昨年、ロケット技術を応用した超高速な長距離旅客輸送プロジェクトを2020年以降に開始すると発表した。
現在の飛行機とさほど変わらない料金で、ニューヨーク、東京を含む主要都市をわずか30分ほどで移動できるとのことだ。
また、人工知能が運営するハウステンボスの『変なホテル』に代表されるように、人工知能(AI)がどんどん身近になっている。
1989年に公開された『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で描かれた未来の世界に夢見た人は多いが、その中で実化していないのは “タイムマシーンのみ” といったところだ。そんな目まぐるしい進化のなか、音楽という古来から続く文化はどうだろう。
今回は、マンドリンを含む音楽文化について、未来を予測してみよう。
最初に断っておくが、以下に書くことは私たちにとって望ましいことばかりではないかもしれないが、決して悲観的になってはいけない。
20年後、あるいは40年後にこの文章を目にした人が『なんだこりゃデタラメじゃないか』と思うか『なるほど』と思うか。
その結果を楽しみにしながら過ごせると思うと今からワクワクし、そのためにこの文章を書いていると言っても過言ではない。
なるほど、なるほど。
そうか、2018年だからスペースXが盛り上がってた頃ですね。イーロンマスク恐るべし。
ハウステンボスの『変なホテル』も話題になりましたね。
書いた当時の時代背景を確認したところで、早速本文に入りましょう。
~予測① プロの演奏家が激減する~
過去を遡ってみよう。
90年代には、既に自動演奏のピアノが世に出ていたと記憶している。
自動演奏に鍵盤が連動し、まるで透明人間がピアノを弾いているかような場面を目にし、好奇心を刺激されたことを覚えている。
その後、自分もMIDI、ソフトフェア音源で作曲するようになり、便利さを実感する一方、音質面では納得できるものではなかった。
特に弦楽器については、デジタル臭さが気になって、いつも最もマシだと感じていたピアノやハープの音色を使って作曲していた。
しかし、2000年代に入り、”Vienna Symphonic Library” というソフトウェア音源に出逢ったとき、その自然な音色に衝撃を受けることとなった。
『この先もこのペースで音源のクオリティが進化するなら、将来プロの演奏家は必要なくなるのでは?』という疑問がよぎったのもその時だ。幸いなことに今のところプロの演奏家は存在している。
では、20年後はどうだろうか。どれくらいの演奏家が生き残っているだろうか。
少なくとも、並の演奏レベルで並の方法で仕事をしていても厳しい世界が待っているだろう。
私たちもうかうかしていられない。正真正銘の「人間」にしかできない演奏家とは何なのか、自問自答していきたい。
なるほど。
「将来プロの演奏家は必要なくなるのでは?」
「将来、プロの演奏家が必要だとすると、それはどんな存在だろうか?」
という疑問&問題提起ですね。
当時の自分は「20年後は…」とか言ってますが、今の自分からは「そこは10年後でしょ」と突っ込んでおきたいです。
つまり、今から5年後には演奏という概念が驚くほど変わっていると予測します。それほど大きな変化が今起こっています。
「人間が楽器を物理的に演奏する」ということは、昔は音楽を奏でる唯一の手段だったわけです。しかしその後、蓄音機が生まれ、レコードやCDが生まれ、DVDが生まれ、インターネットを通じて同時に多数の場所で音楽を共有できるようになりました。
音楽が必要とされる場面はこれからも存続するでしょう。でも「人間が楽器を物理的に演奏する」ことでしかそのニーズを満たせないでしょうか? 多くの場合はそうではないと思います。
ただ、逆に体験価値の希少性が上がることも考えられます。
「え?木で出来た楽器を…?手を動かして演奏してるの?!変わってますね!」なんて反応が返ってくる日も近いかもしれません。
むしろそのほうが好都合だったりするかもしれません。
~予測② ロボット音楽家が活躍する~
演奏だけでなく、作曲においても人工知能が活躍する時代が来ている。
『Orpheus』に代表されるような自動作曲プログラムが続々と登場しており、クオリティも以前と比べると格段に上がっている。
では今後、自動作曲家がどのようなフィールドで活躍するのだろうか。例えばゲーム音楽。
ゲーム音楽は、音楽を単体で味わうものではない。素材という感覚に近い。
音楽を素材として捉えた場合、コストや納期スピードが優先されることになり、その土俵では人間がAIに勝つことは難しいだろう。
アイドルの楽曲などもそうだ。
純粋な芸術作品ではなく『売れるもの』を作る技術に関しては、ビッグデータと自動学習を駆使する人工知能のほうが遥かに伸びしろがある。少なくとも20年後には、多くの人間作曲家は淘汰され、汎用的な音楽素材のほとんどはAI作曲家が担当するだろう。
もっとも、その行為はもはや作曲とは言えないのかもしれない。
海岸に転がっている適当な石を集めて、どこかで見たような作品を作っているようなものだから。一方で、演奏のほうはというと、スタジオミュージシャンならまだしも、人前で演奏するロボットミュージシャンというのはいまいちピンと来ない。
ただし、皮膚や毛髪、振る舞いまで人間と見分けのつかないロボットなら需要があるかもしれない。
「ロボット音楽家が活躍する」ですか…なるほど。
「AI作曲」と「AIロボット演奏家」の二つについて言及していますね。
まず、AI作曲については、正に2023年の今、大注目の分野ですね。
ゲーム音楽でAI作曲が多用されるのは間違いないでしょう…というか一部もうそうなっているか。ツッコミどころは全くないです。
ただし『売れるものを作る技術に関しては、ビッグデータと自動学習を駆使する人工知能のほうが遥かに伸びしろがある』という部分だけは少し異論があるかもしれません。
概ね同意なんですが…AI作曲が得意なのは「売れるものを作る技術」ではなく「売れる確率の高いものを作る技術」ですね。
過去統計や人間の知覚を分析することにより売れる確率の高いものを作ることはできるかもしれません。でも、人間の不確実性やそこから生まれる未来の変化にどこまで対応できるのでしょう?
未来の人間の行動や知覚の予測パターンを絞り込むことはできるかもしれませんが、完全な予測というのはまだまだ無理だと思います。
そういう意味で、人間の行動が絡むことに関しては、いくらAIとは言え完全にコントロールすることは出来ないでしょう。
後半のAIロボット演奏家については…うーん、これは難しいですね。
人間演奏家とロボ演奏家、コストの観点で言うと今はロボットのほうがお高いですが、そのうち人間よりもロボのほうが安くなるでしょう。仮に、人気キャラクターのロボットが時給換算800円で生演奏してくれるとしたら、人間のプロ演奏家よりも重宝される場面が多くなりそうです。
ただ、そもそも楽器の生演奏を聴くという体験価値が根底から揺らぐ可能性もあるので何とも言えないようにも感じます。これも逆に「人間が」「生の楽器を」「リアルタイム演奏する」の希少な3点セットにこそ、現在とは異なるニーズが生まれる可能性もあると思いますし、新たな体験価値を生むヒントが潜んでいるかもしれません。
~予測③ 音楽という概念自体が曖昧になる~
これは非常に漠然とした予測だが、頑張って説明したい。
1980年代までは、テープが伸びるまで一曲を何千回もリピートして聴いたものだ。
個人的な話だが、今でもビートルズのアルバムの曲順はなんとなく覚えている。
一方で、デジタルネイティヴ世代は、浴びるような情報の中、1つの楽曲に費やす時間はとても短い。
音楽を単体で楽しむことも少なくなっているのではないだろうか。
映像やダンス、アニメ、ゲーム、あるいは空間演出、ファッションの一部と考えられることも多くなった。今後ますます『これは果たして音楽と言えるのだろうか』と思わざるを得ないもの、あるいは『音楽とは認識されない音楽』が増えるのではないか。
最後です。
「音楽という概念自体が曖昧になる」ですか、なるほど。
言いたいことはめっちゃわかります。というか、この項目はツッコミどころがないかも…。
音楽はアートの一部であり、ファッションの一部でもあり、空間演出の一つでもあり、複合的なエンタメコンテンツの一部でもあるわけです。
もはや未来において、音楽だけを取り出して言及する必要がどれほど残っているか、ですね。音楽という言葉自体は消えることはないと思いますが、用法や意味が大きく変わっている可能性もあると思います。
1960年代生まれの人と1980年第生まれの人と2000年生まれの人では『音楽が好き』というフレーズの意味が微妙に異なると思います。
2020年生まれの人にとって『わたし音楽が好きなんですよ』というフレーズは一体どんな意味を持っているのでしょう。
ちょっとまだ想像がつかないですが、近いうちにその変化を目の当たりにできると思うととても楽しみです。
少なくとも「いや、それは音楽じゃないでしょ」なんて反応をしてしまう頭の固い大人にはなりたくないものです。
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